2004年9月
日本人大活躍のアテネオリンピックが終わりました。まだ少し寂しいような気もしますが、夜は早く眠れるようになりなんとなくほっともしています。 ハンマー投げ金メダリストに一時なりかけたアヌシュがメダルを返還するしないでもめました。
今話題のドーピングについて考えてみましょう。
ドーピングというのはアフリカ東南部の原住民カフィール族が祭礼や戦いの際に飲む強いお酒(Dop)からきているそうです。現在では、興奮作用や筋肉増強効果のある薬剤を摂取し、競技を有利に戦うのが目的となっています。ドーピングのはてには副作用による障害が不可避です。本来健康のためにスポーツがあるわけですから到底許されることではありません。
しかし、国によってはオリンピックでメダルを取ったり世界新記録を樹立すれば一生安泰な生活を保障されたりしますから、誘惑に負けてしまう選手やコーチがいるのです。ドーピングは年々巧妙になり、今回アヌシュ選手の同僚が指摘を受けた筋肉増強剤も検出をしにくくする操作ができることが判っています。今回は運悪く陽性になってしまったのでしょうか。ということはドーピングをしても検査の網をすり抜けている可能性もあるわけです。検査の精度は年々向上していますから、ドーピングする側とのイタチゴッコになってしまっています。誰でもドーピングが判明すれば失格になることは知っているわけで、ドーピングをする選手は隠蔽操作に自信を持っていると考えてよいでしょう。
もしかするとドーピングを密かに上手にしている選手は多いのかも知れません。金メダルを剥奪されたベン・ジョンソンが騒動のあとのインタビューで、ドーピングをみんながやっていて自分は運が悪いだけだと言っていたのを思い出します。
ドーピングの副作用は意外に怖いものです。筋肉増強剤では性器障害や動脈硬化、ショックが引き起こされ、向精神薬では精神に異常を来たします。アメリカ陸上のジョイナーは驚異的な記録を残し、その記録は第2位の記録を大きく上回りまさに桁違いです。しかし、98年に心臓麻痺38歳の若さで死去しています。ドーピングからくる心筋梗塞による心不全が原因と考えられています。アメリカ陸上の選手にアンケートをとったところ、半数以上が死んでも良いからドーピングをして記録を伸ばしたいと答えたそうです。どうやらドーピングの根は思ったより深そうです。
私はがんの遺伝子治療の研究に従事していた時期があります。がんの増殖を抑制するような遺伝子を、ベクターという運び屋に乗せがん細胞の中で作用させるのが遺伝子治療の原理です。最近うわさでは、運動機能を高めるような遺伝子を選手に投与する研究が進められています。これだとドーピング検査にも検出されにくく、長期間に渡って効果が持続することが期待されているのです。ここまでくればこれはもう人造人間と言ってよいでしょう。ただここにも落とし穴はあって、一旦遺伝子を入れてしまうとうまく作用をコントロールできないのです。筋肉増殖や赤血球増加が際限なく進む可能性もあり当然生命を脅かすことになります。
サッカーの起源は諸説ありますが、そのひとつに8世紀ころのイギリスでは戦争で打ち負かした相手の将軍の切り取った首を蹴って勝利を祝ったとされ、これがサッカーの原型だともいわれています。スポーツと戦争は、戦うという意味では似ているかもしれません。冷戦が終わり一時期に比べれば戦争状態の地域が減少している現在、オリンピック競技やサッカーのような世界的な戦いは(誤解を恐れず言わせていただければ)戦争の代償行為なのかもしれません。とすればドーピングをして命がけで戦うのもわからなくはないですが、あまり行過ぎるとドーピング合戦になってしまい本来のスポーツからかけ離れたものになってしまう危険性があります。第一そんな薬漬けの選手のプレーでは面白さは半減です。驚いたことにプロスポーツはドーピングの規制があまりなく、考えてみれば競技前後にドーピング検査はしていません。時々ドーピング疑惑がでていますが日本でも意外に広がっているのかもしれません。
選手生命はおろか寿命まで短くしてしまうドーピング。スポーツくらいはクリーンにやって欲しいというのは、かなわぬ願いなのでしょうか。
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