内視鏡を担当される先生方へ
1400例経鼻内視鏡を経験して
-極私的経鼻内視鏡習得法-
オリンパスの細経内視鏡(先端4.9mm、本体5.2mm)を導入して1年で約1400例の上部内視鏡検査を経験させていただきました。私なりにいろいろ気づいたことがあり、まとめてみることにしました。つくづくこの内視鏡のすばらしさには感服する毎日ですが、意外なことに内視鏡に携わる先生方に誤解や偏見があるようです。普及が進んでいないため、仕方のないことなのかもしれません。この文章が、少しでも経鼻内視鏡に対する理解の一助になれば幸いです。
圧倒的な苦痛の少なさ
当院では以前より上部内視鏡検査をより苦痛なく受けていただく努力をしており、それなりに評価されていたように思います。十分に咽頭の麻酔を施し、挿入を丁寧にし、必要な場合には鎮静剤の投与を併用する・・・。いつのまにか内視鏡検査の苦手な方が口コミで集まってくるようになりました。月100例以上の上部内視鏡検査を施行しその1割弱で鎮静剤を投与していました。しかし、十分な覚醍後にお帰りいただくわけですが、やはり術中術後の合併症に対する不安はぬぐうことはできませんでした。経鼻内視鏡なら鎮静剤を必要とすることが減らせるかもしれないと、単純な動機で導入に踏み切ったのでした。
結果は、鎮静剤の投与を必要とした患者さんは1400例中5例のみ、危険と判断し挿入しなかった方は3例でした。鼻腔が狭く経口法に変更したのは約7%でした。当院は人間ドック、検診の数が多く内視鏡をお受けになる方は20歳から40歳代が大半を占めます。つまり嘔吐反射はどちらかというと強い世代です。そういう患者さんで特に苦痛なく上部内視鏡検査を受けていただきました。
そうなのです。嘔吐反射が少ないことが経鼻内視鏡のまず第一の特徴なのです。当院の内視鏡室はとても静かです。嘔吐反射のゲーッという音はほとんど聞かれません。これは実際に体験されないと想像もできない程です。嘔吐反射は約半数の方ではほとんどなく、あったとしても反射の程度は5分の1位ではないでしょうか。胃内の観察時もゲップをされることがほとんどないため、一旦エアーを入れて膨らませてしまうと追加の加圧が必要ないのです。
また、経口内視鏡挿入時に特に問題ない方で検査後に咽頭の軽い疼痛を訴えられる方がいますが、経鼻内視鏡では皆無でした。内視鏡の断面積が3分の1であることと経口に比べて、食堂への挿入角度がなだらかで刺激が少ないためと考えられます。
鼻からの挿入ということで鼻出血がまれに見られますが、1400例中極軽微なものも含めて30例に過ぎませんでした。適切な前処置をすれば鼻出血は意外なほど多くはありませんでした。また、すべて10分程で出血は止まっています。
操作にやや慣れが必要
細経内視鏡の操作上の特徴はとにかく“腰がない”ことです。これは長所にも欠点にもなります。加えてアップ、ダウンの二方向のみしか操作ができません。しかし、細いため指先のわずかな力で回転トルクを掛けられるので慣れるとほとんど不自由を感じません。
食道入口部の通過時に正確な方向、位置でないと挿入は難渋することになります。慣れてくれば少しダウンをかけてややトルクを与えれば容易にカメラは入って行きます。若干時間を掛けて慎重に挿入することが重要です。通常のカメラの挿入時のカクンという“抜けた”感じはまったくありません。するするという感じで入ってゆき、通常のカメラで起こる嘔吐反射が見られないのです。苦痛がないので、この時点から患者さんにモニターで説明をしつつ食道を見ていただきます。そして、会話ができることを伝え安心していただきます。手にティッシュを持たせ、口腔に溜まる唾液は飲み込まずこまめに出すように指示します。誤燕を予防するためです。
噴門部の通過も同様でアップを掛け左にトルクを与え挿入します。通常のカメラよりやや気を使います。
十二指腸球部から下行脚への挿入は、細経内視鏡の方が容易と感じています。右トルクでアップを十分に掛け少し進め、左トルクを掛けてアップを戻してくると下行脚が観察できます。細いので十二指腸壁に引っかかりにくいのかもしれません。
腰のなさは生検時に最も感じます。生検かん子が閉じているときは硬く、開いているときは柔らかくなります。強くアップを掛けたいときに生検かん子が閉じていると十分に掛かりませんので、かん子を開いた状態で操作しなくてはならない時もあります。つまり、生検かん子の硬さに影響されるほど腰がないのです。ただ噴門部の生検も可能ですから、慣れてくれば通常の内視鏡とは大きな差は感じなくなります。
操作に慣れるために細経内視鏡で経口法でまず100例程の経験を経た上で、経鼻法に移行するのがいいのではないかと思います。
鼻の痛みが問題
経鼻内視鏡では程度の差はありますが、若干の鼻腔の痛みが伴います。特に、鼻腔介を内視鏡の先端手前1cmと7cmの凹凸が通過するときに出現します。技術の進歩によりこの凹凸を無くすことができると、さらに経鼻内視鏡の苦痛は軽減するでしょう。また、あと0.5mm直径が細ければ経鼻で挿入できただろう、あるいはより苦痛が少なかっただろうなどと贅沢なことを考えてしまうこともあります。
ここで鼻腔介を通過するときの注意点に触れたいと思います。左右の中・下鼻甲介計4つが挿入ルートになります。左右の鼻腔に軽く内視鏡を挿入し、最適のルートを選び出します。慣れてくると短時間で選択できるようになります。ここでの注意点は、カメラのレンズは内視鏡の中心にはないということです。視界が良く鼻甲介が広そうに見えても、カメラの先端が当たってしまうことがあります。そういう時は、無理に挿入せずカメラを回転させわずかにアップダウンを掛けて探ってみてください。
更にもうひとつの注意点は、鼻甲介が狭いように見えても意外にスムーズに挿入できる場合があるということです。どうしても視覚的に広いルートがない場合でも、ゆっくり無理せず挿入を試みてください。あくまでも指先の感覚に集中して、カメラがどうしても当たる場合や痛みがあるときは、すぐに経鼻での挿入をあきらめることです。
以上からいえることは、経鼻内視鏡においては視覚での情報と同等に、カメラが鼻腔に当たる感覚を指先で感じ取ることが重要ということです。食道入口部を越えるまでは、とにかく慎重にゆっくりと進めることです。
食道入口部に到達したら、カメラの本体に柔らかいゼリーを追加塗布してください。鼻腔内は口腔に比べると乾燥しており、乾燥状態のカメラの部分は引っかかってしまうのです。
鼻腔を抜去する際は、特にゆっくりと操作し最後に苦痛を与えないのも重要です。最後に苦痛があると特に印象が強くなるようです。また、稀に挿入時より検査後半になって鼻腔の浮腫のためか操作に抵抗感を感じるようになる時があります。その場合も、ややゆっくり気味に抜いてきた方が良いでしょう。
まとめ
ここでこんなことを言うのは勇気がいるのですが、最近私自身経鼻法が最高とは限らないと思い始めています。結構細経内視鏡では、操作に慣れれば経口でも苦痛はかなり軽減できるのです。鼻腔の狭い方は経口を選択するべきです。ただやはり鼻腔が普通に広い方は、経鼻法が望ましいでしょう。
経鼻法を避けた方がいいのは、体格が小さい方(特に女性)で実際に鼻腔の狭い方です。鼻中隔湾曲や鼻炎の有無は、あまり障害になりませんでした。以前に経口内視鏡で苦痛があまりなかったという方は、経鼻法の方が辛かったと申されるときがあります。経口法で苦痛の軽かったという患者さんに対しては、経口法を選択した方がいいかもしれません。細経内視鏡のメリットは、苦痛が軽減されることです。現在は経鼻法にはこだわらず、臨機応変に対応しましょう。ただ、その判断ができるようになるまでは、ある程度の症例数が必要です。
今後は、経鼻内視鏡がさらに認知され大学病院、中核病院で教育体制が整って効率的にトレーニングができるようになることを望みます。麻酔時間が長い、検査時間が長い、吸引が弱い、視野角が狭く見にくい、生検検査がきちんとできるか等々・・・導入時に私自身が不安に思っていたことは、ある程度の症例を経験するうちに克服できるようになってきました。今は、デメリットよりメリットをはるかに強く感じています。
私は、胃を専門とする外科医でしたので、胃がんの早期診断の重要性を痛感しています。当然のことながら、診断は胃透視検査より内視鏡が数段優れているわけです。しかし、一方で内視鏡の苦痛が真理的なトラウマとなり、二度と胃カメラを受けたくないと言う方が少なくないのも事実です。定期的継続的な検査をより多くの患者さんに受けていただき、早期に胃がんの診断をするためには、苦痛の少ない内視鏡の普及が必要です。今後、細経内視鏡の普及は急速に加速してゆくでしょう。そして、胃カメラアレルギーの患者さんは減ってゆくことと思われます。
現在は、経鼻内視鏡を導入している医療機関があまりにも少なく、また検査経験の多い医師が多くはないため、この内視鏡の良さが認知されるにはまだまだ時間を要するでしょう。細経内視鏡は操作に慣れればデメリットは、ほとんど解決できます。経口でも経鼻でも、とにかく苦痛が少ないのです。最近は経鼻内視鏡の講習会も増えてまいりました。機会をお作りになって、細経内視鏡に習熟した医師の手技をご覧になってみてははいかがでしょうか。
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